『せからしか』作品講評

著者の壮絶な人生を辿る、見事な作品だ。波乱万丈な軌跡を、非常に軽快な筆致で綴っている。普通ではなかなか経験できないようなことをさらりと書いてのけるあたり、非常に余裕を感じ著者の人となりが伝わるようだ。そのギャップが読み手を惹きつけるのだろう。

大学進学率が 50%を超える現代を生きる人々にとって、中学卒業後にすぐ就職するという選択肢はほとんどないだろう。それをただ「珍しい」という言葉で終わらせることなく、現代に通ずる考えや問題に繋げることによって、共感や納得を生んでいる。テーマの物珍しさだけを売りにする数多くの作品にはない、読み手を巻き込むような面白さが光っている。

借金による金銭的な問題が解決して息つく暇もなく、病に体を蝕まれる著者。その姿がありのままに描かれ、その目まぐるしさはドラマを見ているかのようだ。しかし、読者がしっ
かりと物語についていくことが出来るのは、何よりも著者の文章力によるものだろう。比喩表現や回りくどい表現が控えられているので、場面が映像として脳内で再現される。さら
に、「訛り」の独特な深みや重厚感が読み手の感情に訴えかけてくる。直接的な感情に対する描写がなくとも読者の想像力を刺激してくる。このような細かな機微は、そうそうできる
ものではない。

本作品の魅力をより際立たせるために、年齢ごとの文章量のバラつきをなくすことを提案したい。短いエピソードは同時代の他のエピソードと繋げることで、構成面でも統一感が
出る。視覚的にも読者を魅了することができるはずだ。また本作品は、世代ごとに異なる印象をもたらすだろう。著者と同世代の読者には共感や納得、若者には驚きや新しい視点を与えるはずだ。

テーマもよくオリジナルの感性と実力もあるので、出版されれば確実に良い反響が得られるはずだ。あらためて弊社編集担当者とともに推敲を重ねることで、さらに作品を磨き上
げていってほしい。弊社新刊・電子書籍として市場流通し、多くの読者のもとに届くことを楽しみにしている。


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